【2024/8/4執筆】
令和2年10月の建設業法の改正によって、建設業許可に関する事業承継と相続に関する規定が整備されました。
それまでは基本的に許可の取り直し、つまり新規許可が原則とされていましたが、建設業許可を受けている場合は、建設業の全部を他の者が承継(譲渡・合併・分割・相続)する場合、所定の手続きを経て認可を受けることで、承継先は、承継元の許可を含む建設業法上の建設業者としての地位を継承することができるようになりました。
どのような場合にどのような手続きが可能なのか、整理してみましょう。
建設業許可承継の方法
1.事業譲渡
「事業譲渡」は建設業者が許可に係る建設業の全部を譲渡する場合です。
個人事業主が生前に行う事業承継、個人事業の法人化(「法人成り」)、法人事業の個人化(「個人成り」)も含みます。)
2.法人の合併
「法人の合併」は建設業許可業者である法人が合併により消滅する場合に、合併存続法人又は新設法人が建設業者許可業者としての地位を継承する場合です。
3.法人の分割
「法人の分割」は建設業者許可業者である法人が、分割によって建設業の全部を承継させる場合です。
4.相続
建設業許可業者が死亡した場合に、その相続人が建設業の全部を相続する場合です。
手続の性質上個人事業の場合に限ります。
これらの承継手続きを利用せず、法改正前の原則どおり新規の許可申請手続きにより許可を承継することも可能ですが、その場合には新規申請手数料9万円が必要となります。
確かに、新規手数料の額を除けば諸々の承継の要件を考慮すると新規のほうがむしろシンプルに進められる、というケースもないわけではありません。
建設業許可承継の要件
それではどのような要件を満たせば承継の手続をとれるのでしょうか。
法改正後の「承継の認可」を受けるためには、以下でご説明する全てに該当していることが必要です。
1.承継の事実が発生する「前に」申請を行い、認可を受けること
相続以外の承継(事業譲渡、法人の合併、法人の分割)を行う場合は、あらかじめ認可を受ける必要があります。そのためこれらの手続き発生後に遡って認可を受けることはできません。
新規申請も同様ですが申請時に書類に不備不足がある場合は受付されないため、事前に十分な準備が必要です。
尚、個人事業の相続については、被相続人(許可を受けている個人事業主)の死亡後 30 日以内に申請を行う必要があります。
細かい点ですが、承継日までに承継元の建設業許可が失効した場合には、地位を承継することはできないため、更新期限等もあらかじめ確認しておきましょう。
2.建設業の「全部を」承継先に承継させること
承継元たる建設業許可業者が営んでいた建設業の「全部を」承継先に承継させる場合に限って、許可の承継が可能です。
つまり承継元たる建設業許可業者が営んでいた「一部の業種のみ」を承継させることはできないということです。
認可申請の前に一部の業種を廃業し、残った業種の全てを承継させることには差し支えありません。
3.承継元が一般(特定)建設業の許可を受けている業種について、承継先が特定(一般)建設業の許可を受けていないこと
承継の場面だけの話ではありませんが、1つの事業者が同一の業種について一般建設業と特定建設業の許可を受けることはできません。例えば「土木一式」を「一般」と「特定」両方許可を受けることはできません。このことは承継認可の場面でも同様で、承継元と承継先が同じ業種の許可を受けている場合、一般・特定の区分が同じときに限り、許可の承継が可能となります。
承継できる場合
承継元の許可 | 承継先の許可 | 承継後の許可 |
・土木一式(一般)
・管(一般) ・造園(一般) |
・建築一式(一般)
・管(一般) ・大工(一般) |
・土木一式(一般)
・建築一式(一般) ・管(一般) ・造園(一般) ・大工(一般) |
承継できない場合
承継元の許可 | 承継先の許可 | 承継後の許可 |
・土木一式(一般)
・管(特定) ・造園(一般) |
・建築一式(一般)
・管(一般) ・大工(一般) |
・土木一式(一般)
・建築一式(一般) ・管(一般) ・造園(一般) ・大工(一般) |
この場合、承継元・承継先のいずれかが管工事を事前に廃業すれば承継が可能になります。
4.承継後の全ての業種について、承継先が許可の要件を満たしていること
当然といえば当然ですが承継先が建設業許可の要件を満たしていることが必要です。
承継先は、許可の承継後に有することになる全ての業種について、専任技術者の配置等の建設業許可の要件を満たすことが求められます。
この点、申請時点で承継先が建設業許可を受けていなくても、事業譲渡や合併分割等によって承継元の役員や従業員が承継先に移ることで要件を満たすことができれば、承継は可能です。
ただ、簡単に移ると言っても承継の形態によっては雇用契約の再締結や社会保険・雇用保険の手続き等が必要ですので、認可手続きのスケジュールの上では注意が必要です。
具体的な承継認可の申請手続
では、具体的に承継手続に関する申請の流れを見てみましょう。
少なくとも管轄役所への事前相談はしたほうがいいと思います。
承継認可は一般的な申請とは異なるため、建設業許可を専門とする行政書士でもケースが少ないと言えます。誤った認識を持った結果、最終的に手続できないという状況は避けなければなりません。
具体例:法人成りの場合の申請方法について
個人事業主が法人成りを行って認可申請を行う場合は、カテゴリー的には事業譲渡による申請をすることになります。
1.法人設立
認可申請前に法人の設立を行います。
事業承継日までは個人事業主として事業を行うことが前提とされています。
社会保険等の資格取得日も事業承継日より前とならないよう注意しましょう。
2.事業譲渡契約の締結
個人事業主と法人との間で事業譲渡契約を締結します。事業開始(予定)日は基本手に事業承継日です。
3.認可申請
あらかじめ定められた申請手続に沿って申請を行います。
事業承継の効果
承継についての認可を受け、承継の事実が発生した段階で法に基づく承継元の建設業者としての地位が承継先に承継されます。
ここで「建設業者としての地位を承継する」とは、建設業法第3条で定められた建設業の許可を受けたことにより発生する権利と義務の総体を言い、その結果承継先は承継元と同じ地位に立つこととなります。そのため、建設業者としての地位の承継先は承継元の受けた監督処分や経営事項審査の結果についても、当然に承継することとなります。
この点、建設業法第45条から法第55条までに規定される罰則については、建設業者としての立場と言うよりも違反行為を行った被承継人という法人(個人)そのものに対して処罰を科すものであるため、基本的に承継人に承継されるものではありません。
建設業許可番号
承継先が承継後に使用する許可番号は、原則として承継元のものを引き続き使用することとなります。
承継先が既に許可業者である場合は、承継元と承継先の許可番号のどちらを使うか選択できます(宮城県知事許可)。
認可後の許可の有効期間については、承継前に承継元及び承継先が受けていた許可の有効期間の残存期間に関係なく、承継の日の翌日から起算することになります。なお、承継日当日も、許可は有効です。
相続の場合は、認可日翌日から起算します。なお、認可日当日も許可は有効です。
(著者)行政書士 方波見泰造(ハイフィールド行政書士法人)
行政書士歴10年。建設業許可に関しては新規・更新・各種変更手続きの他、経営事項審査申請のサポートと入札参加資格申請を東北六県、関東で対応中。顧問契約で許認可管理も行っている。行政書士会や建設業者でも建設業許可に関する講演・セミナー実績あり。
【保有資格】行政書士、宅地建物取引士(登録済)、経営革新等支援機関
経済産業省認定経営革新等支援機関として企業の資金繰をサポートするほか、不動産業(T&K不動産)にて事業用地の仲介も行う。
許認可という企業の生命線をしっかり管理しながら、資金繰りと事業用地という経営の土台も支える行政書士として日々研鑽を行う。